貿易デジタルデータ活用により、マネロン防止・経済安全保障対策の強化および業務効率化への有効性を確認

~貿易書類のチェック作業効率化により、約20%の工数削減~

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2025年5月16日

近畿大学
株式会社NTTデータ
NTTデータ ルウィーブ株式会社

近畿大学(大阪府東大阪市)(経営学部教授 花木正孝)、株式会社NTTデータ(東京都江東区、以下「NTTデータ」)、NTTデータ ルウィーブ株式会社(東京都千代田区、以下「NTTデータ ルウィーブ」)の3社は、貿易取引を悪用した不正行為(貿易ベース・マネー・ローンダリング(注1):Trade-Based Money Laundering、以下「TBML」)防止策や経済安全保障対策において、貿易デジタルデータの活用が有効であることを共同研究(注2) で確認しました。

今回の共同研究では、輸出入企業と金融機関の協力を得て、以下の点を実証しました。

  • 国内外コンプライアンスに関する実務上(金融機関、輸出入企業、政府機関等)の負荷測定/課題抽出
  • 貿易金融業務のデジタル化による改善ニーズの特定
  • 金融機関における貿易デジタルデータ活用の効果

2025年度も近畿大学、NTTデータ、NTTデータ ルウィーブは共同研究を継続し、将来的には貿易デジタルデータを活用した官民共同利用のTBML対策デジタルプラットフォームの実現を目指します。

1. 取り組み背景

ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の不安定化、米中対立への懸念等の国際状況の大きな変化を契機に、金融機関はTBML等対策の強化やわが国の外為法や米国OFAC 規制(注3) に代表される内外の経済制裁の順守、2024年5月に施行された経済安全保障推進法への対応等、外国為替コンプライアンス対応のさらなる強化を求められています。
これらに対応するため、金融機関は貿易書類の形式チェック、輸出入者の本人確認、商取引内容(商品、相手国価格)の妥当性確認とともに、取引関係者が経済制裁の対象者でないことや制裁対象国の付近を通過する船舶の航路チェック等も実施しています。対応作業の増加に伴い、外国為替コンプライアンス対応のチェックを行う担当者数も増大している状況にあります。
こうした金融機関における状況変化を踏まえ、「TradeWaltz (トレードワルツ)」(注4) 等の貿易プラットフォーム(以下、貿易PF) が保有するデジタルデータの活用に着目し、近畿大学、NTTデータ、NTTデータ ルウィーブは2024年11月より共同研究に取り組んでいます。共同研究では、貿易PFにより、貿易書類に記載されている項目が正確にデータ化されることで、金融機関等における確認作業の軽減や、TBML等対策の実効性向上につながるかの評価・検証を行っています。

2. 共同研究の概要

共同研究においては、近畿大学は、TBML対策に関わる金融機関、輸出入企業、政府機関等へのヒアリングを通じて、貿易デジタルデータ活用によるTBML等対策への改善効果の評価や貿易デジタルデータ活用に向けた業務面・法制面での課題の抽出を行いました。
NTTデータは、これまで金融機関のマネー・ローンダリング対策ソリューションを提供してきたNTTデータ ルウィーブとも連携し、金融機関が保有するTBML等対策システムでの活用について、輸出入企業および金融機関の協力を受けて、実証を実施し、有効性の評価を行いました。
共同研究の結果、金融機関や輸出入企業の現状のTBML対策における課題と、貿易PF上に保有する輸出入取引に関するデジタルデータを活用することで見込まれる効果は、以下の表のとおりです。コスト軽減および業務負荷軽減等の課題解消が見込まれることを確認しました。

表:TBML対策における現状の課題と見込まれる成果

業種 現状のTBML対策における課題 貿易PFが保有するデータ活用によって見込まれる効果
金融機関 OCRによる貿易書類データの認識エラーは人手による修正が必要 デジタルデータをそのまま利用可能
税関で許可された貿易取引の確認(外国送金依頼時による貿易書類の目視、等) 登録された輸出入許可情報より、取引の正当性を確認可能
貿易書類の記載内容の妥当性の確認、偽造がないか複数の情報ソースやチェックディジット(注5) などの実施が必要(入出港日や船名、寄港地、コンテナ番号やB/L(注6) 番号 等) 登録された内容を正として項目の妥当性を確認可能
税関が定める品目分類コード(HSコード)ごとに、商品の取引価格が適正範囲であるか職員が自ら確認 登録されたHSコードや税関申告時の価格情報を基に商品価格が適正範囲にあるか確認可能
輸出入企業 貿易取引内容について、金融機関からの頻繁な問い合わせや、取引関連ドキュメント提出依頼に対応 輸出入企業に対する問い合わせや書類提出依頼などの低減

また、共同研究の実証では、金融機関における多くのTBMLチェック項目が、貿易PFに登録された輸出入許可データとして存在し、これらのデジタルデータを活用することで金融機関にとって大きなメリットがあることが分かりました。具体的には、金融機関における業務効率の約20%改善とともに、取引情報の正当性確認、価格情報の妥当性確認、航路情報の正確性確認により、TBML対策の一層の強化が見込まれます。

実取引データを用いた実証の概要

図: 実取引データを用いた実証の概要

■ 業務効率化の観点でのメリット

  • 約20%の工数削減効果(注7)

■ TBML等対策強化の観点でのメリット

  • 取引情報の正当性確認
    港名、船名、B/L番号、インボイス番号、原産地等について虚偽記載の有無を確認可能
  • 価格情報の妥当性確認
    商品HSコードやインボイス価格、数量等について、精度の高い価格情報が入手可能
  • 航路情報の正確性確認
    積込/荷降港、船積日、船名、B/L番号、コンテナ番号等 から、航路の正確性を確認可能

3. 共同研究成果の公表について

本共同研究の詳細については、近畿大学商経学会の研究論文集「商経学叢」(第71巻 第4号)に掲載するとともに、以下のとおり公表します。

研究論文のダウンロード先
掲載URL: https://researchmap.jp/m-hanaki/published_papers

4. 今後について

近畿大学、NTTデータ、NTTデータ ルウィーブは、本年度も共同研究を継続して実施していきます。
具体的には、本共同研究の成果を踏まえ、金融機関、輸出入企業、政府機関に対しての内容の共有、関係者による勉強会の設置を通じて、関係者ごとの課題の抽出と具体的な対策を検討し、課題解決に向けた施策を提言します。
また、今回実施した実証についても、検証対象データや参加者を拡大することで、日本全体として今後のTBML等対策に必要なプラットフォームについての具体的な検討を行います。
今後も近畿大学とNTTデータ、NTTデータ ルウィーブは、貿易金融分野においてデジタルデータを活用した業界全体のDX化を推進し、貿易デジタルデータを活用した官民共同利用のTBML対策デジタルプラットフォームの実現等、日本の金融システムのさらなる高度化を通じて、安心・安全な国民生活の実現に貢献していきます。

  • (注1)マネー・ローンダリング:犯罪によって得られた資金を、その出所や真の所有者が分からないように合法的な資金に見せかけるための行為。マネー・ローンダリングはテロ資金供与や組織犯罪の資金調達の手段として利用されることが多く、各国政府や金融機関はこれを防止するための対策を講じています。
  • (注2)近畿大学とNTTデータ、TBML防止・経済安全保障対策への貿易デジタルデータ活用について共同研究をスタート
    https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/112200/
  • (注3)米国のOFAC規制:米国財務省外国資産管理室(Office of Foreign Assets Control)が実施する経済制裁で、国家安全保障や外交政策を目的としています。対象者との取引禁止や資産凍結が含まれ、違反者には多額の制裁金が課される可能性もあります。
  • (注4)TradeWaltz:貿易業務のデジタル化を推進するプラットフォームで、輸出入に関わる情報共有や書類の電子保管を可能にし、貿易手続きの効率化と透明性の向上を図る目的で2020年に提供を開始しました。 https://www.tradewaltz.com/
  • (注5)チェックディジット: 数字列の誤入力を防ぐために元の数字列に付加される検査用の数字のこと。入力された数字列が検査用の数字と一致するかを確認することで、入力誤りを検出することができます。
  • (注6)B/L:貿易における重要書類のひとつであり、船会社が輸出を行う荷主の貨物を受け取った際に発行される運送契約書類。船荷証券(Bill of Lading)とも呼ばれています。
  • (注7)

    金融機関における約20%の事務効率化については、以下により算出しています。

    • 輸出入許可デジタルデータの活用が可能なチェック項目⋯23項目(B/L等の貿易書類におけるチェック対象項目の約20%)
    • 1項目当たりのデータ入力にかかる工数⋯10~30秒/項目
    • 1日あたりの処理ドキュメント数⋯200枚(約24,000項目)

    上記データを基に、今回実装検証に参加いただいた金融機関において、現状で100人/月を要している作業について、約20%の事務効率改善(17.8人/月分の作業工数削減)が見込まれると評価しています。

  • 文章中の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。

【本件の配布先】

大阪科学・大学記者クラブ、東大阪市政記者クラブ

【本件に関するお問い合わせ先】

報道関係のお問い合わせ先

  • 学校法人近畿大学 経営戦略本部広報室
  • 担当:坂本、立山
  • Tel:06-4307-3007
  • E-mail:koho@kindai.ac.jp

製品・サービスに関するお問い合わせ先

  • 株式会社NTTデータ 公共統括本部
  • 第三公共事業本部 デジタルプラットフォーム事業部
  • 第一システム統括部 第一営業担当:河田、篠田
  • TEL:050-5546-2910
  • E-mail:tbml@hml.nttdata.co.jp
  • NTTデータ ルウィーブ株式会社
  • FCS事業戦略部 FCS新規ビジネス室
  • 担当:平出
  • TEL:044-223-3716