SPAZIO 65 全7エッセーの紹介文
- 1.『オランダ人への旅 Ⅴ タジリの王国』 吉屋敬(オランダ在住)
まさに未知への旅に誘われるように、読者は忽ち巧みな筆法に絡め取られて、筆者が長く心にかけてきたオランダ人の魅力にとりつかれてしまう。筆者が紹介してくれた人物は今回で五人目。彼らは皆、稀に見る個性の持ち主で、今回の「タジリの王国」の主もまた、あらゆる技法を我がものとして83歳の今日まで作品を創り続けるマルチアーチスト。筆者はそんな「タジリ」氏の業績と人生を行きつ戻りつ辿りながら、日本人の血が流れるこの大芸術家へのオマージュという労作を私たちに贈ってくれた。
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- 2.『セドナリアンの四季』 乾竜三(セドナ在住)
女性誌がいわゆる癒しの地の一典型として盛んに取り上げるようになってから、セドナも大分知られるようになった。でもリタイヤー歴五、六年の筆者のような住民にとっては、セドナはただ空は蒼く、空気は清澄というだけで済むものではないらしい。逆に慣れ親しんだ俗塵を離れたからこそ、ニューヨークの経済がワシントンの政治が、よく透視できる分だけ気になるという逆説を、目下の筆者は生きているようだ。
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- 3.『身体をめぐる断章 12 肝臓の不思議』 小池寿子(国学院大学教授)
鷲に啄ばまれるプロメテウスの肝臓は、啄ばまれるたびに再生するというギリシア神話に端を発し、エトルスクの肝臓占い、プラトンの肝臓への思い入れ、カエサル暗殺に関わるまがまがしい前兆、果てはマクロコスモスとしての宇宙と、ミクロコスモスとしての人体の照応による占星術的医学にも言及しながら、筆者は長年のテーマ「美術に表現された身体」への旅を歩き続ける。足や手、背中、乳房から始まった当シリーズは、近頃はもっぱら内臓。おぞましいなどと思うまい。次回もどうぞお楽しみに。
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- 4.『フラメンコという深淵――死を凝視する目』 佐藤花那子(フラメンコ舞踏家)
昨年末「SPAZIOに私も書いてみたい」というメールがスペインから届いた。WEB発行に切り替えた思いがけぬ効果だった。交渉はすべてメール。まずはお会いしてからという長い編集方針に目をつぶり、いわば賭け。でも危惧は幸い早い段階で解消し、まことにユニークなエッセーと写真が届いた。賭けは成功したと編集者としては信じているが、読者の皆様は如何。花那子(かなこ)氏には来号も寄稿していただく予定。
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- 5.『地中海式食事法と[健康長寿]』 佐々木巌(ウェルネス・ササキクリニック院長)
前号の『癒しの空間としての地中海世界』を補完するように、筆者は今回、地中海地域の食事に大方のページをさく。そして近頃よく耳にする「生活習慣病」の予防には、オリーブを多用する当地域の総合的な食事法こそ効果があると説く。しかも糖尿病、心臓病、脳卒中、ある種のガンなど、つまり生活習慣病は栄養不足から起きるのではなく、言うまでもなく栄養過多に起因すると警告する。ドクター・佐々木の奨めに従い、まずは野菜炒めにでもオリーブ油を使ってみては如何。
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- 6.『デューラーの《二皇帝像》と聖なる見世物』 秋山聡(東京大学助教授)
思わず見とれてしまうほど美しい自画像で有名なデューラーが、なぜこうも実在感の薄い皇帝達を描いたのか。弟子に任せたのか、贋作なのか。だが二皇帝の衣装や王冠や宝珠は細部にわたって巧緻である。読者はこの謎が、筆者の説くさまざまな事情や状況の経路を素直に辿ることで徐々にと言うべきか、いやむしろ、最終的に突然解消しているのに気付く。重箱の隅を突つくような仕事と、かつて筆者は笑っておられたが、こういう仕事が実は大道を開くと解した読者は少なくないのではないか。
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- 7.『イタリア12都市物語10 パルマ』 小川煕(美術史研究)
ミラノやフィレンツェ、ローマといった大都市をあえて避けて、筆者は珠玉のような中小都市を訪ね歩くのだが、ペルージャ、モーデナ、ピーサ、パードヴァ、シエーナ、ヴェローナ、ウルビーノ、マントヴァ、フェッラーラ、そして今回のパルマまで来て10回目。しかし、まだ見落とすわけにはいかない街が二つも残っているのだから、イタリアはつくづくすばらしいと思う。願わくはこの珠玉のようなエッセーを一冊にまとめて下さる出版社の一日も早い出現を。イタリアの街を美術を愛する旅人の、またとない案内書となること間違いなしなのだから。
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